Vol.2 楽園で踊ろう!! 〜バリ島ウブド〜 の巻

「私はここに行かなければいけない!」
ウブドという村がある事を知った時、私はなぜか瞬間的にそう思い込
んでしまった。

素朴な田園風景に囲まれたバリの『芸術村』ウブドでは、街中にギャ
ラリーが軒を連ね、毎夜ガムランの調べと共にあちこちでバリ舞踊が
繰り広げられているという。そしてそういった芸術を気軽に習う事も
出来るらしい。
「自然の中で心と身体を癒し、芸術三昧の日々!あぁ、なんて素敵
!!」
頭の中がウブドで一杯になってしまった私は「どうせ行くなら踊りを
習ってみよう!」と思い立ち、バリ舞踊の先生を紹介してくれるという
ゲストハウスを予約すると、一人ウブドへと旅立ったのだった。

街にはギャラリーがいっぱい!

もう先生きてますよ!」
「えっ、どこに?」
宿のご主人ワヤンさんが指差した先に立っていたのは、小柄で物静かな感じの『普通のお兄ちゃん』
だったので、私はちょっとビックリしてしまった。勝手に女の先生が来るものと思っていたので、正直
「大丈夫か?この兄ちゃんで」という感じだったが、なんでもプロの舞踊団の団員で、日本で公演した
事もある実力派らしい。

いででででっ
さぁ、いよいよ練習開始!!
宿の人達がレストランのテーブルや椅子をどけて、踊るスペースを作ってくれ、
まずは準備運動からスタートした。が、私は体が異常に硬いので、この段階で
もうすでにかなりキツイ !とにかく頭からつま先まで使わない所がないという
位全身を使うのだ。ヒーヒー言いながらなんとかそれを終えると、次は*レゴン
ダンスの基本ポーズに進む。しかし、これがまた難しい!!お腹をひっこめ腰
を突き出して膝を曲げる。肩は上げ、指を反り、目、顔の向きなども決まってい
て気を抜ける所が全くない。前の晩に観に行った舞踊団の踊り子さん達はい
とも簡単にやっているように見えたが、さすがにそう甘いものではないよなぁ。
「モットヒザヲマゲテクダサイ」
「いででででっ」
もう体はガチガチである。

そしていよいよ曲の振りを教えてもらう事になった。初日なので先生の「イチ、
ニッ、サン、シ」という声に合わせてやってみるが、なかなか思うように体は動
かないし、リズムの取り方も難しい。レッスンを終える頃には膝が笑い、使っ
ていなかった筋肉を急に使ったせいで体中が痛くなっていた。
けれど、たった2時間ダンスを習っただけで、それまでどこか他人行儀だった
バリが急に私に近づいてきてくれたような不思議な感覚に包まれて、何だか
とってもいい気分だった。

レッスン2日目。今日からガムランのテープをかけながらの練習だ。私の習っ
ている曲は、基本中の基本といったものらしく、宿の人達もみんな踊れるよう
だった。私が踊っているととっかえひっかえやって来ては一緒に歌ったり、茶
々を入れてきたりする。「ウマイですねー」と誉めてくれる人もいれば「手はも
っとこうよ!」とか言いながら入ってきて、先生そっちのけで指導してくれる人
もいた。とにかくみんな優しくて、暖かく見守ってくれているのが分かる。

ウブド王宮で毎晩行われる
バリ舞踊
先生はレッスンに必要な日本語くらいしか喋れなかったけれど、とても丁寧に教えてくれた。普段は本当
に物静かで、振りを教える為に私の体を触らなければならない時は、必ずりちぎに「スミマセン」と言う様
なシャイな人なのだが、いざ踊りだすと目つきも別人のようにキリッとして、色気さえ漂わせるそのカッコ
良さには「さすがプロ!!」とほれぼれしてしまった。
やっぱりただの『普通の兄ちゃん』じゃなかったのだ。いやぁ〜、ホントに申し訳ない!

スラマ・ラティ舞踊団の看板スター
さすがの踊りっぷり
ウブドは噂通り、いや、それ以上に芸術にあふれた本当に素敵な所
で滞在中はずっと午前中2時間ダンスを習い、午後は美術館やギャ
ラリーを見て回り、お腹が減ったらおいしいインドネシア料理を食べ、
夜はプロの舞踊団のダンスを観に行くという、私的にめちゃくちゃ満
ち足りた日々を送っていた。私がここへ来て1番「素晴らしいなぁ!」
と思ったのは、画家も、プロの舞踊団に所属するダンサーやミュージ
シャンも、普段は農業に従事している人がほとんどだという事だ。
ここでは芸術は特別なものなんかじゃなく、生活の一部であり、みん
ながアーティストなのだ。あぁ、なんてうらやましいんだろう・・・。



とうとう最後の朝。約8分ある曲の振りを大急ぎで最後まで教わると、後は何度も何度も繰り返し踊っ
た。最初は思うように動かなかった体も段々動くようになり、ガムランの複雑なリズムも自然に分かる
ようになった。やっと踊るのが心地良くなってきた、という所で帰らなければならない事が本当に悔し
い!でも、相変わらずとっかえひっかえやって来る宿の人達が
「バグース(最高)!!」
と拍手をしてくれたのが凄く嬉しかった。レッスンを終えると先生が
「ワスレナイヨウニ、レンシュウシテクダサイ」
と使っていたガムランのテープをプレゼントしてくれた。これはウブドの想い出と共に私の一生の宝物
だ。

思いつきで習う事にしたバリ舞踊だったけれど、この土地に受け継が
れてきたものを実際に体験してみた事で、ただ通り過ぎるだけの旅で
はたぶん気付かなかったバリの息づかいみたいなものを、ほんの少し
かもしれないけれど感じられたような気がする。
Selamat jalan(さようなら)!
そしてSampai jumpalagi(また会いましょう)!!


*レゴンダンス・・・バリ舞踊の代名詞的な踊り。古代の宮廷舞踊劇ガ
ンブーと宗教儀式舞踊サンヒャン・ドゥダリの二つの要素を取り入れて
十九世紀始め 頃に創作された。

迫力満点のケチャ!
彼らのリズム感の良さにはたまげた!!






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