Vol.4 客引きオスマン 〜トルコ・カッパドキア〜 の巻

海外を旅していると、日本にいる時には出会う事のない(出会っていてもまず話す機会がないであろう)
おもしろい日本人に出会える事がある。
トルコを旅していた時の事。奇岩で有名な世界遺産カッパドキアのギョレメという村を、旅の途中で友達
になった女の子と一緒に歩いていると、前から歩いて来た髪がボサボサの日本人の兄ちゃんに
「こんにちは!どこに行かれるんですか?」
と声を掛けられた。
「これからお昼ご飯でも食べようと思ってるんですけど・・・」と答えると
「僕が世話になってるペンションは奇岩をそのまま使ってるんですよ。良かったら見に来ませんか?レス
トランもあるし、睡眠薬入りのチャイごちそうしますから!(これはもちろんギャグ)」と言うので、見に行っ
てみる事にした。
そのペンションは「スターケイブペンション」といい、街の中心から少し
離れていたが、本当に奇岩をそのまま使っている部屋があり、なか
なかおもしろい宿だった。彼の本名は高木さんといったが、宿の人達
には『オスマン』と呼ばれ、宿代をタダにしてもらう代わりに仕事を手
伝い、客引きをしていたのである。どうりで、やけにこの土地に馴染ん
でいるというか『普通の旅人』という感じがしなかった訳だ。こんな所
で日本人の客引きさんに出会うとは思っていなかったのでここに泊ま
ってあげたかったが、もう宿を決めてしまった後だったのでそう断ると
「そうですか。じゃあ明日カッパドキア1日ツアーがあるんですけど、行
きませんか?」
とすかさず次のセールストークに移った所は、さすがトルコ仕込みで
あった。

昔、修道士達が住んでいたパシャバー地区

ちょっとひと休み・・・
たいていの宿が旅行会社と契約していて、ツアーに参加する客を紹
介するとコミッションがもらえるので、私が宿泊しているペンションの
ご主人にも誘われていた。
「どうしよっかな〜」と迷っていると
「まぁそれは考えておいてもらって、これからゼルベ屋外博物館へ行
くんだったら案内してあげますよ!あそこは何度か行ってるけど、ギョ
レメの博物館よりずっと凄くて楽しいですから!」
という事なので、それは喜んでお願いする事にした。
ドルムシュと呼ばれる乗り合いバスに乗り込み出発!ところが行き先
が違ったらしく、ゼルベから2キロ程手前の別れ道の所で降りなけれ
ばならなかった。
「道路を歩いてればドルムシュが来るから、それに乗って行ってもい
いけど、畑の中や岩を乗り越えながら行く方が、本当はおもしろいん
だよね」
というオスマンさんの意見に賛成し、私達はもう収穫が終わった畑の
中を歩き出した。枝に付いたまま乾燥してしまった『天然レーズン』を
ちぎって食べながら、おもしろい形の岩を登り、超えて行く。途中かな
り大きな岩に登った所でひと休み。そこは『パシャバー』という地区だ
そうで、円筒形の岩の頭の部分にキノコが乗っかっている様な形の
岩が沢山あり、何とも不思議な光景が目の前に広がっていた。ずっと
見てみたいと思っていた奇岩の中に今自分がいるなんて、なんだか
信じられないような気持ちだ。普段はあまり歩くのが好きな方ではな
いが、普通だったら車窓からさらっと眺めるだけで通り過ぎてしまった
だろうこの風景の中を、自分の足で歩き、実感する事が出来て、本当
に特した気分だ!歩くのがこんなに楽しいと思ったのは初めてかもし
れない!!

有名な「3本キノコの岩」

ゼルベ屋外博物館で探検気分
ゼルベ屋外博物館は「博物館」と呼ぶにはあまりにもスケールのでっかい渓谷
だった。中には住居として掘られた部屋が無数にあり、その部屋と部屋、山と
山とをつなぐトンネルも細かく張り巡らされているという。キリスト教の修道士達
が外敵から身を守りながら生活していたそうである。
さっそく頭に懐中電灯を付けた『オスマン隊長』を先頭に、真っ暗なトンネルをく
ぐり抜ける。内部を見て回るのは想像以上にハードで、途中までハシゴが掛け
られている所もあるが、さらに上の部屋まで行くには、たてに掘られたトンネル
を、手と足をロッククライミングの様に引っ掛けながらよじ登って行くしかない。
「うわ〜、こりゃ無理だよ〜!危ないよ〜!!」
と初めはかなりたじろいだ。もしここで落っこちて死んでしまっても、たぶん何の
保障も出ないであろう。しかしオスマンさんが先に登って上から明かりを照らし
ながら
「右手ここに引っ掛けて、左手ここ!次、足はそこ!!」
と誘導してくれたので、土ぼこりまみれになりながらも、何とか一番上まで登り
きる事ができた。
ああ、なんと心地良い充実感!!博物館でこんな探検気分が味わえ
るなんて、本当にビックリである。下を覗くと、人がもの凄く小さく見え
る。よくこんな所まで登ったもんだ!いや、それよりよくこんな所まで
掘ったもんだ!!人間が持つ計り知れないパワーと自然の雄大さ、
不思議さをいっぺんに見せ付けられ、私はかなりの衝撃を受けてしば
らく放心状態になっていた。オスマンさんがいなかったら絶対にここま
で登れなかったし、トンネルさえも見付けられなかっただろう。こんな
にワクワクする体験をさせてもらった事に心から感謝して、お礼を言う
と彼は行った。
「いやぁ、正直言うと、これも全て明日のツアーに申し込んでもらう為
にやってるんですよー」
ここまでしてくれなくても申し込むのに・・・。やはりトルコ仕込み(^_^;)。


バラ色に染まるローズバレーの夕景
オスマンさん、もう日本に帰ってきているかなぁ。それともまだどこかの国で、客引きをしながら旅を続け
ているんだろうか・・・。



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