Vol.5 ナマステの威力 〜インド〜 の巻

タージ・マハールで有名なアグラ近郊の駅から、ヒンドゥー教の聖地
ヴァラナシへ向かう電車を待つ間、しばらく時間があったので、私は
フラフラと駅前のバザールを歩いてみる事にした。
そこは野菜や果物等の食料品や日用雑貨等色んな露店が立ち並ぶ
見るからに庶民のマーケットといった感じで、凄い活気に満ちていた。
そんな中を少しドキドキしながら歩いていると、お店のおじさん達がえ
らい固まった顔で私をジーッと凝視しているのに気がついた。

お客さんそっちのけでポーズを決める床屋さん

じゃがいもを売る親子
インドの人達は「チラッと見る」とか「さりげなく見る」という事を知らないようで、
あのクッキリハッキリした濃いー顔で思いっきり穴の開くほど見つめるのであ
る。中には仕事の手を止めビックリしたような顔をしている人もいる。そんなに
外国人が珍しいのだろうか?でも、はっきり言って怖い!何とかこの状況を打
破出来ないものかと考えた私は、ためしに一人のおじさんに向って
「ナマステ(こんにちは)!」
と言ってニッコリしてみた。すると、さっきまでの表情が一変し“ニマァ〜ッ”と
笑顔になったではないか!あれ、こんなんでいいの?私はもう1度違うおじさ
んにためしてみた。
「ナマステ!」
“ニマァ〜ッ”
これだ!!そう悟った私は、目の合う人目の合う人みんなに「ナマステ!」
「ナマステ!」と声を掛けていった。
すると、だいたいの人が“ニマァ〜ッ”と笑い、なんだか嬉しそうに周り
の人と喋りだすのである。たぶん「あの外国人ナマステって言ってる
ぞ!アッハッハ!!」とでも言っているのだろう。しかしナマステの一
言でこんなにみんながにこやかになるとは思わなかった。でも、反対
の立場で考えてみれば、めったに出会う事のない外国人が自分達の
言葉で挨拶してきたら、結構嬉しい気分になるかもしれないなぁ。
やっぱりどこの国でも挨拶は基本なのだ。ナマステ効果でその場は
一気になごみ、私が「写真撮ってもいい?」とジェスチャーすると「オ
ーイ!写真撮るから集まれ〜!!」と仲間を呼び寄せてしまったり、
自分から「撮ってくれ!」とポーズを決めるオヤジが出てきたりと、な
んだか大騒ぎになってしまった。

「ナマステ」で一気になごんだバザールの人達

働く子供達の姿が目についた
そんな事をしている間に電車の時間が近付いてきた。もう駅に戻らな
くては!バザールの人達に手を振り、急ぎ足で駅へと引き返してい
ると、斜め後方からキコキコと自転車で追いかけて来るおじさんがい
るのに気がついた。不思議に思い振り返った私は、その思いがけな
い光景にビックリ仰天してしまった。子供やおじさん達が何人も私の
後ろに連なって、『ハンメルンの笛吹き』状態でゾロゾロ着いて来てい
たのである。私が呆然としていると、みんなは「気付かれたか!」とい
うような顔でいたずらっ子みたいにイヒイヒ笑っている。はたから見た
らさぞかし面白い光景だったに違いない。そう思うと私も笑えてきた。
彼らから逃れホームに着くと、今度は少年が真っ正面に来てジーッと
私を見つめだした。ハァ、またか…。人に見つめられ続けるというのは
結構疲れるものなんだなぁ。少年はこれでもか!という位しつこく私を
見ていたが、もう「ナマステ」を言う気力もうせてしまっていたので、ほ
っといて座っていると、信じられない事に私の周りにどんどん人が集
まってきて人垣ができてしまった。
なんて表現がストレートな人達なんだ!!
私はいたたまれず「もう勘弁してくれ〜!!」と大声で叫びたかったが
そんな事をしたら余計注目されてしまうのがオチなのでやめた。
インドは本当にパワーのいる国である。

私を囲む人垣。もう勘弁して…




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