Vol.8 マイペンライな休日(サムイでパラセイリング編) 〜タイ・サムイ島〜の巻

初めて読まれる方はVol.6 マイペンライな休日(サムイで待ち合わせ編)からどうぞ!

たぬきのケガは幸いたいした事もなく、チャウエンビーチに到着した我々は、タイカレーのランチ
の後、パラセイリングをする事になった。ビーチにはきちんとしたツアー会社が主催する“マリン
スポーツ受付カウンター”のようなものがあるのかと思っていたら、そんな立派なものはどこに
も無く、ビーチボーイ達が小さな看板を出して運営しているようだった。「え、こんなんで大丈夫
かい?」と内心思わなくもなかったが、廣井がさっさと料金交渉をしてくれているし、言いだしっ
ぺは私なので今さら不安を口にする事は出来なかった。
説明によると、まずモーターボートにつながったパラシュートを体に
装着し、ボートがスタートしたら後ろでパラシュートを広げて持って
くれている数人のビーチボーイ達と一緒に「ハシル!ハシル!」と
いう掛け声に合わせてビーチを全速力で走って飛ぶのだそうだ。
そして終わる時はザブンと海の中へ落とされるので、パラシュート
の金具を取り、ボートに上がってくれという事だった。後から聞い
た話だと、船の上から舞い上がり、またその船に戻ってくるという
全然濡れずにすむラクチンなものもあるらしいのだが、私達はそん
な事は知らなかったので、言われるがままに納得し、ジャンケンで
順番を決める事にした。

チャウエンビーチ
1番手はえっちゃんに決定!すると、ビーチボーイの一人がえっちゃんを気に入ってしまったらし
く、パラシュートを体に取り付けながら、何やら甘いささやきを繰り返し始めた。えっちゃんはとび
きりのナイスバディなので、まぁそれも仕方ないかもしれないが、必死に「ノー!ノー!!」と繰
り返してもメゲる様子もなく、逃げられない状態なのをいいことに「今夜の予定は?」などとしつこ
いので、困ったえっちゃんは廣井に助けを求める。しかし、廣井は「今夜はレゲエパブに行くよ」
と正直に答えてしまい、全く役立たずなのであった。


さあ、準備完了!モーターボートがスタートすると、えっちゃんは説明通り「ハシル!ハシル!」
の声に合わせてビーチを走り、波打ち際でフワッと舞い上がった。
「うわ〜っ、気持ちよさそ〜!!」
ああ、もう待ちきれない!私はこの旅でパラセイリングをするのを誰よりも楽しみにしていたのだ。

ハシル!ハシル!
15分程して、えっちゃんが「楽しかったよ〜」と気分爽快な顔で
戻ってきた。何も問題は無かったようだ。
次は廣井。そして、いよいよ私の番になった!
前の二人と同じようにパラシュートを体に付け「ハシル!ハシル
!」の声に合わせてビーチを駆け抜けると、私の体もフワッと宙
に浮いた。
「ヒャッホーーイ!!」

しかし、浮かれていたのもつかの間、私は自分が前の二人とは
明らかに違う状態である事に気が付いた。私の体はなぜか空に
は舞い上がらずに、海面スレスレの低空飛行を続けているので
ある。その上「あれ〜、変だなぁ」と思っている間に、正面に停泊
している船のポールにどんどん近付いて行っているではないか!
「おいおい、このまま行くとぶつかっちゃうんじゃないの?いや、まさかそんな事になる訳ないよ
なぁ」私は一瞬頭をよぎった不安をすぐに打ち消した。そんな危ない目に自分があうハズがな
い!という全く根拠の無い思い込みのせいか、私は不思議と冷静に迫り来るポールを見つめて
いた。すると、モーターボートの運転手が「これはヤバイ!!」と思ったのか、急にスピードを上
げて方向転換をしたので、私の体は前後左右にブルンブルンとおもしろいように大きく振られな
がら、もの凄い勢いでぐんぐん上空へと上がって行った。
「ヒヤァァァ〜〜〜〜〜ッ!!!」
これにはさすがに少しビビッたが、何しろ初めてだったので「まぁこんな事もあるのかなー」と思
いながら、私は絶叫マシーンでもめったに味わえないそのスリルを目一杯楽しんでいた。


しばらくすると揺れもおさまり、上空から眺める景色は本当に美しくて気持ちが良かった。実は
昨夜、私はほとんど眠る事ができなかった。バイクで島を一周して、パラセイリングをしている
自分の姿を想像するだけでどうしようもなくワクワクしてしまい、すっかり目が冴えてしまったの
だ。「想像していた事を、今実際にやっているんだ・・・」そう思うと嬉しくてしょうがない。
「あれ、あっちに滑走路が見える〜!」「わぁっ、みんながあんなに小さいぞ!おぉ〜〜い!!」
などと一人でブツブツ言ったり叫んだりしながら「今日はなんていい日だろう!」とサムイに来ら
れた喜びをかみしめたのだった。
私の浮遊時間もそろそろ終わりの様で、徐々に海面が近付いてきたな
ーと思ったらザボンと海に落とされた。
「簡単に取れるからパラシュートを付けている金具を自分ではずしてくれ」
と言われていたのだが、潮の流れが意外に速く体が横になってしまい、
けっこう取るのが大変だった。その上、ボートまで泳ぎ、自分ではしごか
らボートによじ登らなければならなかったので、次のたぬきの事が心配
になた。彼女は水泳が苦手なので、これはちょっとキツイのではないか
と思ったのだ。
「ネクストガール、キャントスイミング。ヘルプ!OK?」
こんな英語で通じたかは疑問だが、とりあえず運転手さんにたぬきの事
をお願いしビーチへ戻る。
「あー、気持ちよかったぁ〜!」
ご機嫌でボートから下りると
「マキ〜、大丈夫だった?」
とみんなが駆け寄ってきた。
「え、何が?」

私の飛びっぷりに大笑いする廣井氏
心配してないじゃん!!
「だって、あの船にぶつかりそうだったじゃん!もうみんなでヒヤヒヤしてたんだよー!!」
そういえばそうだった。
「うん、でも平気平気!楽しかったよ!!」
しかし、みんなの話を聞いていると、私はかなりヤバイ状況に見えていたそうで、ビーチにいた、な
ぜか日本語がペラペラの欧米人旅行者までが
「何かあったらどうするんですか?お父さん呼ぶの?」と心配してくれていたらしい。
(「お父さん呼ぶの?」ってなんかおかしいけど)
私はたぬきの心配をしている場合ではなかったのだ。今になってなんだか恐ろしくなってきた。
ああ、私、無事で良かった!!

最後のたぬきがスタートする。
「俺、マキさんの後だったら絶対やらなかったね」
上空に舞い上がっていくたぬきを見ながら、廣井がポツリとつぶやいた。




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